そらまるのマイルールの中に「部活がある土日は、ノー勉Dayとする」というものがある。
7月1週目の土日は部活の大会があったため、そのルールが適用された。
それは、駿台を落とし、選抜を落とし、難関チャレンジをも落としたことにより、1つクラスが落ちることの確定した週の土日であった。
私は、そらまるに直訴を申し出た。
「クラスが1つ下がるというこの時に、部活があるからと言う理由でノー勉などあるまじき行為ではないのか!ルール改正を求む!」
それは予想通りあっさりと撃沈し、この鉄壁のマイルールが実行されていたその土曜の夜、国語の講師からの電話が鳴った。
国語講師からの謝罪とテストの見解
その電話は「面談申し込み用紙の未提出」により確認の連絡であった。そらまるだけでなく母親までもがこの有様だ。
とは言え、ルール改正の直訴撃沈によりテーブルに倒れ突っ伏していたときであったため、先生からの電話は救世主からのものであるかのように感じた母であった。(そらまるは、倒れる母を背に気にも留めず、FIFA(サッカーゲーム)真っ最中であった。)
面談は月曜の16時にすることで話が決まると、国語の講師は話し始めた。
「それで、お母さん…。
駿台、難チャレと国語が取れてなくて申し訳ありません。
選抜テストで少し持ち直してくれたのですが、そこで早慶下位クラスの合格が確定して気が緩んだのか…難チャレであきらかに失速しました。
答案用紙を見たら一目瞭然で、国語の解答用紙が空白空白で問題への粘りが一切見られませんでした。」
国語講師の伝えたいことはこうである。
一つ目の駿台テストで早慶クラス基準が不合格だったそらまるは、2つ目の選抜テストでは緊張感があり、早慶上位基準には届かなかったも早慶下位クラス基準に合格を得る踏ん張りを見せた。
残るは難チャレでA合格を目指せば早慶上位クラスに残留できたのだが、なにしろ早慶下位クラスの席は確保できたことによる気の緩みにより、最後の難チャレで国語の偏差値が27と大失速していったのである。
国語の解答用紙が空白で埋め尽くされていたことで「1点でも取る」という粘りの見えない部分に「早慶下位クラスを確保できたことでの気の緩みにより大失速」と、国語講師は捉えていた。
そんな国語講師へ、私はゲームをするそらまるの背中を見ながらこう伝えた。
「失速もなにも…もともとやる気が見えませんから。
もうすぐ夏合宿ですが、うちみたいなやる気のない子が行く意味ってありますか?」
ため息をつきながら、投げやり感がダダ漏れする母に国語講師はこう答えた。
「お母さん…
あ、お母さんに今お話しするより、僕はそらまる君に言いたいことがあるので、月曜の授業後に残して本人に話していいですか?」
「はい、どうぞ。よろしくお願いします」そう言って電話を終えた。
国語講師から伝えたこと
月曜の22時、国語講師から報告の電話が鳴った。
「今、そらまる君を帰しました。今日は、お母さんがご心配されてることをそのまま話すのではなく、あえて僕が思うことを伝えました。
いろんな角度から話して聞かせることに意味があるので」
そう言って、そらまるに伝えた内容とそらまるがそれに対しどう答えたか、一部始終話して下さった。
「夏休みからは、早慶下位クラスで授業となるけど、早慶クラスに残れていることがすごいんだ。そこにいれば大丈夫。早慶のどこかには行けるってことだからな。」
「あー…でも上位クラスに戻りたいです。」
「戻りたいハッキリした理由はあるの?
下位クラスでも1勝はできるぞ?
場所的に志木でも通えるんだろ?」
(志木志望でなく塾高志望であることを知っていて、あえて誘導中)
「あー…いや…僕は塾高に行きたいです。」
「そうなんだ。
じゃあ、塾高に絞っているのであれば「早慶どこか1つは受かる早慶下位クラス」にいてはダメだよな?
だってそれだと、志木かもしれない、学院かもしれな、本庄かもしれない、塾高かもしれない、どこか1つに受かる学力ということだろう?
そしたら、塾高はバツかもしれない。
そらまるが塾高に行きたいなら、全勝できる早慶上位クラスに戻らなきゃいけないよな?」
「はい」
「じゃあ、今のままの学習量でいいと思う?
先週の宿題の理解度テストで漢字は8割、だけど古文は0点。
そらまるは、いつも自分のやりたいやつだけササッとやって来るよな?
それで上位クラスに戻れると思うか?
文法も、そらまるは自分のやり方を頑固に押し通すけど、それでテストが通過してるならいいけどさ、駿台と難チャレ見てどう思う?
とにかく、先生のやり方通りにやってみろよ。
「そんなのやらなくても、僕のやり方でいける」
そういう頑固な部分はもう捨てて、点取りに行けよ~!
でも、先生は別にこういったそらまるの部分を怒ってない。
そこはこれから変えていけばいい部分だと思ってるから。
ただ1つ怒ってるのは
テストへのやる気、粘りの無さだ。
答案用紙を見たらすぐにわかるぞ。
そらまるは、いつも英語に対しては分からなくても空白にしない。
選抜テストには、国語にもその粘りが見えた。
それが、難チャレでは、空白空白。1点でも取りたいという気持ちの強さが全く見えなかった。
匙を投げているのが見えたぞ。」
そらまるは、じっと先生を見つめて聞いていたそうだ。
言語化の必要性を説く
「それで、そらまるはなぜ塾高がいいの?」
「近いからです」
「確かにそれは本音だな。
でも、大人には本音と建前が必要なんだ。
志木の面接官に「君は、うちが合格を出しても塾高に行くよね?だって自宅から近いもんね?」とわざと聞かれるよ?
そのとき「はい。近いので」と本音を言ったら落ちるよ。
塾高の面接官に「君はどうしてうちに入学したいの?」に対して「はい、近いので」と言っても落ちるよ。
結局、近いだけじゃないなにか建前を用意しないといけない。
その建前を伝えるためには、自分の考えを言語化しなければいけないんだ。
それは、お母さんに対してもだ。
中2なんてさ
お母さんの言ってくること、うざくて答えるのも面倒くさいよな?
先生もそうだったから分かるよ。
そらまる、お母さんと会話しないらしいな?
どうして?」
「テストが壊滅的で気分が落ちてるときに
勉強のやり方とかゲームをやるなとか言われて
イライラして話したくなくなるんです」
「じゃあ、そんなときは無視じゃなくて「待って」と言うんだよ。
気持ちを言語化しなきゃ伝わらないんだ。
お母さんは、そらまるの意図が分からないまま、返事が来るまでずっと話し続けるよ。
待って、今は話したくないから。
待って、それは先生と話すからいい。
そんな風に、今話したくない気持ちを言語化しろよ。
お母さんは、
「夏合宿行かせなくてもいいかな…
だってそらまるがやる気あるかないかも全然話さないし、よく分からない」
と言っていたけど、そらまるはどう思ってんの?」
「次のクラス分けでは絶対戻りたいし
早慶上位クラスの子は皆、夏合宿行くし
次のクラス分けは、
難チャレと駿台の2つしかチャンスないから
家でサボってたらやばいし
夏合宿行って勉強したいです」
「じゃあ、お母さんに言わなきゃな。なんて言うの?」
「合宿行く」
「違うだろ、きちんと言語化しなさい」
「頑張りたいので、合宿行かせてください」
国語講師は、ここまでの一部始終を話し終えた。
「こんな感じで、ちょっと兄貴ヅラしながら色々話させてもらいました。
この話で、そらまる君が今後劇的に勉強に取り組むとか、素直に話すとか、僕に心全開にしてくれるとか、そうなるとは思っていません。
でも、親の話を素直に聞けない子であれば、塾の我々が根気強く何度も話す中で、1つでも気に留めてくれて、そうやって少しずつそらまる君が大人になってくれたらなと思ってます。
中2なんて、特に男子は、気持ちをまだまだ言語化できませんから、何を考えているか分かりません。
特に異性である分、お母さんは余計分からないと思いますので、お母さんは大変です!(笑)」
国語講師のこの温かく熱意ある言葉に、私は大変感謝しお礼を何度も伝え、そしてそらまるの帰宅を待った。
そらまるは一体、どんな様子で帰ってくるのであろうか。
少しだけ届いていた先生の言葉
そらまるは
マックのハンバーガーを食べながら帰ってきた。
そして、そのまま何も話さず、ソファに寝転んでお笑いのYouTubeを見てゲラゲラ笑っていた。
まあ、そらまるはそういう子である。
私も先生に感謝はしながらも、大きな期待はしていなかった。
このまま、先生との話などなにも話さないであろう、そう思っていたときだ。
そらまるが、ムクっと起き上がり私にこう言った。
「あ、ママ。
夏合宿、行かせて頂きやす。」
以上。
そのまま、リビングから去って行った。
そらまるの心はこうであったはずだ。
「頑張りたいので、夏合宿行かせてください」
しかし、いつも悪態をついている中2ボーイがそんな言語化はあまりに恥ずかしく、自分の言える範囲での言語化はこれだったのであろう。
「夏合宿、行かせて頂きやす」
「頑張りたいので」は恥ずかしいから省き、「行かせてください」も恥ずかしいからちょっとふざけて「頂きやす」に変換。
反抗期真っただ中の中2ボーイが精一杯の言語化をした、ある夜の出来事であった。
しかし、これは変化に繋がった話ではない。
変わらないそらまるを見守る中で起きた、ほんの1つの出来事である。
ただそれだけのことだ。
親が子どもに変化を期待し求めてしめえば、親子関係は崩れてしまう。
こうした小さな出来事を重ねるうちに、いつの間にか大きく成長した我が子の変化に気づく日が来るのだ。


