賛否両論あるのは承知である。我が家は冬休み以降、学校はお休みした。これにはご家庭それぞれご意見が分かれるところではあるが、我が家は中1のときから「休む」そう決めていた。
そらまるは必ず、最後に追い込まねばならない状態になるであろうと、誰もがそう予想していたからだ。
そして、そらまるは、予想を裏切ることなく、追い込みをかけねばならぬ状況に仕上がったわけである。
心は折れていないか、疲弊していないか
1月、成人の日、早慶シミュレーションテストであった。
その結果のご報告の前に、家庭教師の先生の話をさせて頂こう。
12月末日。お願いした某家庭教師派遣センターから、先生はやってきた。
名前は、早田先生。40代後半のがっちりした体育会系、ポジティブの塊であり、そして非常に誠実な先生であった。
体験授業は2時間である。某家庭教師センターのシステムは、1時間3者面談、1時間授業である。私はせっせとリビングを大掃除し、お茶とお菓子を用意していた。
しかし、早田先生は来るなり「もう授業しちゃっていいですか?時間はないですから!」とおっしゃり、そのままそらまると部屋へ消えていき、終了5分前までみっちり授業をし、5分だけリビングで三者面談をした。
部屋から出てきた二人のムードは和やかで、そらまるの表情はすがすがしく、やわらかかった。リビングで席に着いた早田先生は、そらまるにこう言った。「すごいね。計算がとにかく早い。ひっ算を全くしないからヒヤヒヤしたけど、正解してるからそれでいんだな!笑」
そらまるは、「はい」と言った。
「早慶を受けるとき、計算が早いのは最強の武器です。計算が遅い子は致命的です、なにしろ早慶の問題は、のんびり解いてる時間などないので。そらまる、昔公文とかそろばんとかやってたの?」
「やってません。昔からひっ算をしないで解いていたらこうなりました」
「え!我流であの速さ?すごいねー!」
そして、早田先生は、今度は私を見ながら続けた。
「そらまる君は、集中すると横に私がいるのを忘れてずっと考えるんです。5分経ったし、そろそろ声かけて教えようかなと思うんですが、あまりの集中力に15分待ってしました笑
大抵の子は横に私がいたら、5分考えても分からないとき流石に気を使い始めるものなのですが、そらまる君は15分経ってもどこ吹く風で考え続けていました。
授業時間のこともあるので、15分経ったとき声をかけましたが「もうちょっと待ってもらえないですか?」と笑。
自分で解きたい子なんですね。この粘りとこの集中力はいいですよ~。」
この話の最中、そらまるは無表情を装っていたが、どう見ても嬉しさが駄々洩れていた。
そして、早田先生はお茶を一気に飲み干し「そらまるならやれるよ」と言って帰っていった。
そらまるは、先生が帰るや否や「僕は、小さい時から今までずっとママや先生たちから「ミスるからひっ算しろ」って注意され続けてきたけど、言うこと聞かないでやり続けていたら、何桁でも頭で計算できるように鍛えられたんだよねー。やっぱ僕は正解だったんだな」と誇らしげに言っていた。もちろん、「すごい分かりやすかった。早田先生でお願いしていいよ」とも。
私は、某家庭教師派遣センターへすぐに連絡を入れた。「早田先生でお願いします」
実に久しぶりであった、そらまるが一切の否定もなく大肯定されたのは。
ひっ算を絶対しないこと、それすら、否定されなかったのだから。
その後も早田先生は、受験の終わるまでついに1度も、そらまるのどんなことすらも肯定し続け、否定をしなかった。
その日の夜、早田先生からメッセージが届いた。
「ご指名頂きましてありがとうございます。
塾で、おそらく過去の合格不合格データからそらまる君の合格可能性についての指摘があったのだと思いますが、中学生ですし、よっぽどの信念がない限り、先生に「厳しいよ」って言われたら、そうなのかな~って思ってしまうものだと思うのです。
事前情報で、そのように内容を伺っていたので、まずはそれとは逆のアプローチをして、そらまる君にやる気と「出来るんだ」という気持ちを振るい立たせることが、先決だと考えました。
まずはそこなんです。出来るんだという思いがあるのとないのとで、この残り1か月、そらまる君の吸収力と伸びに大きく関わってきます。」
そらまるの前ではひたすら大肯定、そこにはこういう意図があったのだ。
その後、早田先生は常にポジティブな言葉をそらまるに投げるだけではなく、そらまるの出来ている部分に大きく注目し大いに褒めたたえ、こう言った。「大問1はそらまるはもうできてるから、私の授業ではやらなくて大丈夫だな!完璧に正解できるだろ?」
そして、今の段階で全く手も足もでていない部分はきっぱり捨て、早田先生は、そらまるの途中まではできているが着地は不正解というものだけを拾い集め、大量に問題を用意し、残り1か月、ここだけに時間を使った。
「大問1はそらまるはできてるから、やらなくても大丈夫だな!完璧に正解できるだろ?」この一言が、そらまるの男のプライドとでもいうものなのか、とにかく大問1はミスしないという気持ちに火をつけた。そこからは過去問を解く際、大問1でミスすることが、ほぼなくなったのだ。
どんな言葉がその子の内なる火をつけるのか、ここは神のみぞ知るところであり、親や教育関係者の永遠の悩めるテーマであるが、その根底に必要なのは「君なら出来る」という、その子自身とその子の持つ力や武器を大肯定しているということが大前提なのであろう。
そして、心が折れていないか。
早田先生が体験授業の際に1番に見る点がそこであると仰っていた。そこが疲弊している状態では、脳の働きが衰えてしまい、集中力や吸収力が著しく低下するのだそうだ。
授業の効率が落ちるだけでなく、ラストスパートをかける余力が残っておらず、へとへとで走り切れないのだと。
そしてそれは、当日のテスト時間内を、全集中して実力の全てを発揮することができないことを意味するのだと。
12月以降、心が折れていないか、疲弊していないか。ここが受験の大きなカギを握ると言っても過言ではないようだ。
さて、早田先生にお願いすることとなり、私と先生はLINE上で作戦会議を行い、まず目標を成人の日に行われる早慶シミュレーションテストへ向けることとした。
1月初旬、冬期講習終了日の翌日から3日連続で早田先生の授業は行われ、その2日後、そらまるは早慶シミュレーションテストへと出陣したのである。
早慶シミュレーションテスト、結果
結果は、惨敗であった。
数学 偏差値39
英語 偏差値56
国語 偏差値31
この結果でのたった1つの救いは、この結果をしても、そらまるの心は全く折れていないことであった。
しかし、皆さん。上に綴った内容を思い出してほしい。
お分かりであろうか。
このたった1つの救いこそが、実はなによりも大きな救いであるということを。
心が折れていないということは、まだ息切れをしていないということであり、まだまだ詰め込める余白が十分残っているということなのである。
即ち、追い込みをかけられる余力がまだ十分に残っているという状態なのである。
1月半ば、3年という長きに渡るレースも、ついに最後の直線に突入。
逃げ、先行、差し、追い込み、自在という5種類の受験馬たちが、最後の余力を使って入試本番当日というゴールへ向かい走る。
そらまるは、生粋の追い込み馬である。
逃げ、先行、そして天才である自在というサラブレッドたちのお尻が遥か遠くに小さく見える。
しかし、どんなに離されても折れないその心だけが、追い込み馬の持つどの馬にも負けることのない最強最大の武器なのだ。
追い込み馬たちは、直線からが勝負だ!!!
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