前回の続きである。「青学をチャレンジして早慶全滅なら、県立の進学校に進み、大學受験で再チャレンジということも考えています」この発言が、恩田先生の逆鱗にふれたのである。
この話に入る前に、なぜ私たちが「4番手位の県立高校」という、あまりに無謀な考えに至ったのかだけ、簡単に説明させて頂きたい。
それはなぜなら、中1の初っ端から、内申の取れるような行動を1つも取ることがなかったそらまるに対し、私たちは、この3年間1度たりとも県立高校受験というものを選択肢の1つに入れたことがなく、それ故、なんの知識も情報も仕入れてこなかったのである。
私たちは、県立高校受験について、あまりに無知だった…。
この県立高校受験システム無知両親によって行きついた先が、恩田先生の目の色を変えさせた「県立の~(4番手くらいの~)進学校に進ませます~」という無自覚爆弾発言であったのだ。
逆鱗
県立の進学校というワードに、恩田先生の目の色が変わった。
ギロリッと私を睨みつけ「県立の進学校?」と静かに呟いたと同時に、勢いよく立ち上がり、机の脇にある本棚から「県立高校案内本」をサッと取り出すと、机の上に激しく置いた。
恩田先生は、ある高校のページを即座に開き、今までの淡々と穏やかな口調から、強い口調に豹変し、こう告げた。
「お母さん!!!
そらまる君は、最終内申がオール3になれたとしても、公立中学の先生が面談で勧めてくるのは、この○○高校ですよ!?
もちろん、当日点も関係しますが、公立中側は内申点だけを見て勧めてきますから、そらまる君の落ち止まりが、この○○高校になります!!!
なんのためにこの3年間、早稲アカでここまで頑張って来たんですか!!!
○○高校なんて!!あり得ないですよ!!!大学受験も無理です、ここは!!!
私は、そらまる君をそんな目に合わせたくない!!」
恩田先生の激しい剣幕に、私はたじろいだ。○○高校とは、偏差値で言うと30台の高校だ。
あの高校にそらまるが?私だって、そんなつもりは1ミリもない!
「いえ…そんなつもりは…進学校と考えていたので…」
(「4番手くらいの」などと、おこがましいことを考えていたとは、ついに言えなかった)
そらまるの内申とは、それほどまでに絶望的なものであったのだと、恥ずかしながら私は、この中3の11月後半にもなる最終面談で思い知ったのであった。
公立中の考え方
恩田先生は、私の言葉に落ち着きを取り戻し、いつもの淡々とした口調に戻った。
「ですよね。近々、学校の面談ありますよね?聞いてみてください。恐らく○○高校(偏差値30台)と言われますから。しかも「悪い学校ではないですよ」とまで言われるかもしれません。公立中とはそういうものです。絶対に騙されないでください」
この公立中とはそういうものですという発言は、きつく聞こえるかもしれないが、これは早稲アカと公立中との考え方や求めている方向性の違いである。
そらまるの公立中は、高校進学に対し、偏差値が全てではない、通学には自転車で通えるくらいの距離が望ましい=県立高校が望ましいという根強い考えを持っていた。高校とは勉学だけでなく、友人と思い出を作り、心を育てる場所、そして、その3年間でやりたいことを見つけ、進路を決めていくという考え方であり、何ひとつ間違ったことは言わない。
公立中の進路説明会を中2、中3と聞きに出向いたが、いくつかの公立高校を例に説明があり、私立を第一志望にするという説明はなかった。そして、その例に出された県立高校は偏差値50から60あたりまでの県立高校で、トップ校や2番手校の説明もなかった。ましてや、早慶Marchなどという言葉は一切でない。
そして、「高校は偏差値で決めるべきではなく、その子の興味のある(部活や行事の雰囲気など)その子に合った(無理しない学力)高校を選ぶことが大事です」と、保護者達へ説明された。
説明会の内容は、もちろん理解できる内容ではあったが、しかし、その中で1つだけ驚いたことがあった。
それは、勉強よりほかにやりたいものがはっきりしているのであれば、就職という選択肢もあり、ご紹介できる就職先もあるという話をされ、決して進学しなければいけないわけではない、勉強より得意なものがある子は就職という選択肢もあるのだと伝えられたことだった。
これは何を意味するかというと、公立中とは、あらゆる生徒が通っていて、全ての生徒に平等であるということだ。
そういう背景があり、公立中は逆に早慶Marchを第一志望で目指す風潮は、あまり良しとされていなかった。私自身も担任から「なぜ、電車で1時間もかけて通うんですか?まだ高校生なのに、そんな遠くに通うなんて大変じゃないですか?大学からでいいじゃないですか?」と言われた。
あくまでも、そらまるの通う中学での話であるが、早稲アカの保護者会でもそのように伝えられていたので、基本的に公立中学の考え方としては、このような感じではないだろうか。
それに対し早稲アカは、現実は甘くないという考えである。どちらが正しくどちらが間違いでもないと私は感じていたため、早稲アカ側の発言も、公立中側の発言も(早稲アカにあまり良い印象は持たれていないように感じた)適度に聞くようにしていた。
しっかり自分達の考えがあればいいだけであり、すべての選択肢は自分たちにあるだけのことである。
情報より、我が子
私は、非常に人見知りで、学校のお母さんたちとのお付き合いがゼロに近かったため、よそさまのことを知る機会が著しく乏しかったことで、学校内というこのような小さな社会のことすら、なんの情報も持たなかった。
だからこそ、ほとんどの生徒が県立高校を受験するということも頭になく、頭になかったからこそ、焦りも不安もなかったとも言える。
そらまるも学校の話、友達の話を全くしない為、中学高校と学校のことや同級生のこと、行事内容など、私はほぼ何も知らないまま、卒業したと言って過言ではない。
情報とは、表裏一体である。親が情報を得ると、そこに満たない我が子と満たす他者とを勝手に比べだしたり、大多数のほうに属していない部分を見つけては勝手に焦りだしたり、最悪なのは、それを我が子にぶつけ始めると、それはもう始末に負えない。(偉そうに言うが私もやっていた)
そういった意味では、私は高校受験というものに、そらまるしか見ていなかったことは幸いなことであったように考えている。
他者のことなど気にしたことがなく、いつもそらまるの成績の推移だけで笑ったり泣いたりしていたため、他者と比べるという行為はしないで済んだからだ。
親は、我が子だけ見ていたらいいのだ。先生から言われること、それが公立中学であれ、早稲アカであれ、言われること全てを気にする必要はない。
なぜなら、先生の言葉とは、過去の生徒のデータだったり、一般論であったり、外で見せる我が子の顔への見解だったり、結局はそういうものでしかないからだ。
もちろん、我が子を想っての言葉だから大変感謝はしている。しかし、それが我が子に当てはまることは、7割8割なかったように感じる。
先生より誰より我が子を理解しているのは、母である。何年一緒にいたと思っているんだ。誰が育ててきたと思っているんだ。ここだけは、絶対的自信を持つべきである。
しかし、それすらも、本人の本当の心のうちの10%も理解できてはいないものであることも、理解しておく必要がある。
受けないという選択肢だけはない
恩田先生は、更に話を続けた。
「私は、3年間、この厳しい早稲アカで頑張って来たそらまる君に、March1つでも合格できたという気持ちを持たせてあげたいです。
そらまる君が、私立進学校のA高校やB高校を受けて、どちらかに通うことになっても(A校もB校も、そらまるが早慶全滅となった場合に通う選択肢であった中堅私立進学校)その後、Marchを蹴って大学受験をするのと、全敗した記憶を持って大学受験するのとは、気持ちがまるで違うんですよ。
○○高校(Marchの1つ)、いい学校ですよ。早稲アカに通っていると早慶以外はダメだと思い込みがちですが、全国で見たらMarchは素晴らしいんです!
それに、そらまる君みたいに、キャピキャピしてる子には、○○高校(Marchの1つ)すごく合ってると思うなあ。最高に楽しく充実した学生生活を送れると思いますよ」
そらまるの外の顔の1つには、キャピキャピしているという面もあるのだということを、初めて知った私が「なるほど…(;’∀’)」としか返せないでいると、恩田先生は、私の声がひっくり返るほどの発言をさらっと投げてよこし、たたみかけに入ってきた。
「そこで、日程なんですが、10日の慶應義塾の受験を中大付属に変えて、12日を○○高校(合格の可能性の高いMarch)にすると、合格率としてはだいぶ上がる日程となると思うんですが」
私は、あまりの驚きに、失礼ながら恩田先生の言葉を、強い口調で制してしまった。
「先生それは!!!!
それは全く考えておりません!!
慶應義塾高校だけは
受けない選択肢は、我が家にはありません!!!」
恩田先生と私は、お互い黙ったまま、じっと見つめ合った。いつも恩田先生に相談ばかりして頼りきりだった母が、突然声を荒げたことは初めてだった。
恩田先生は、黙ったまま鋭い眼光で私を見つめてきたが、私も決して目をそらさなかった。
この静寂なる時間は、長く感じたが、恐らく10秒くらいであったのだろう。
恩田先生が、そらまるの現在の実力とデータにて、そらまるを想って考えてくださったどんなに有難いお気持ちであっても、ここだけは、私は1歩も譲る気はなかった。
恩田先生は、じっと一切目をそらすことなく、こう話し始めた。
「そうですか…なるほど…
どうしても慶應ですか。
ただ、そらまる君が1番受かりやすい早慶は
早大学院、なんですがね。」
ここからのもう一波乱は、最終早稲アカ保護者面談3へ続く。
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